生きづらいときには、映画や音楽、芸術に触れてみることをおすすめしてます。
ぼんやりと自分を支えてくれる映像や音色、体験などが、辛い体験を少しずつ少しずつ薄めてくれて、新しい道を探求する手掛かりや発見に導いてくれることがあります。
私自身は90年代に思春期を過ごし、世紀末に向けていつも厭世観(人生や世界を否定的に捉え、幸福や満足を得ることは難しいとする人生観)を感じながら過ごしていましたが、振り返れば多くの何かに救われていたのだと思います。
その中のひとつを紹介します。
映画『キッズ・リターン』(1996年/監督:北野武)でのラストシーンの有名なセリフがあります――
シンジ(安藤政信):「マーちゃん、俺たちもう終わっちゃったのかなぁ......」
マサル(金子賢):「バカヤロー、まだ始まっちゃいねぇよ」
私自身はこのセリフを「もう終わってしまったのかな」「いや、まだ始まってもいないよ」と少し変わった形で覚えていたセリフでもあります。生きづらい時、自問自答する際にいつも頭によぎる言葉のひとつです。
『キッズ・リターン』は、青春の葛藤と挫折、そして再出発を描いた1996年の名作です。高校を中退した二人の若者が、ボクシング(シンジ)とヤクザ(マサル)の世界に進むも、それぞれに深く挫折を経験します。「まだ始まってもねぇよ」という名台詞が象徴するように、何度でもやり直せるというメッセージが心に残ります。
「終わった」と感じているときに、「まだ始まってすらいない」と返されるこのセリフには、静かな熱さと、未来への余白を信じるまなざしが込められています。今でも多くの人に響き、再起や再スタートを象徴する言葉として引用されることも多いです。
始まりに「遅すぎる」なんてことは、決してありません。どんな年齢でも、どんな状況からでも、人はもう一度、自分の足で立ち上がることができます。
そしてそのときはきっと、前よりも少しやさしく、少ししなやかな心で歩き始めることができるはずです。
劇中やエンドロールの久石譲さんの楽曲も心に残る体験でした。演題のキッズリターンという曲の音色は、「背中をおしてくれる」というよりは、「自分の力で前に進もう」と思わせてくれるような曲、と解釈してます。ラストシーンのセリフ、曲に入るタイミングが素晴らしく、何度観ても感動します。
もう随分と記憶が薄れてきましたが、14歳以降の私は、数え切れないほどの何かに救われてきたのだと思います。
退廃的な作品や堕落した思想などの紹介が多くなりそうですが、、またふと思い出した心象風景を、少しずつ書き綴ってみようと思います。
当院は、「まだ始まっていない」誰かの人生にも、そっと寄り添える場所でありたいと思っています。

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