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2025.07.24Blue Salty Milk

〜旅とメンタルヘルスのすすめ〜

 

日常に疲れたとき、心が重たく感じるとき、どうしても前に進めないとき――
気がつくと深呼吸を忘れてしまっていることがあります。そんなとき、ほんの少しでも「日常」から離れてみることで、心がふっと軽くなる瞬間があります。

 

先日、ある島を訪れました。仕事を終えて、深夜便の大型船で夜を過ごし、朝方に島に到着。都心を離れてすぐそばに、まるで別の惑星のような世界があることに驚きました。

 

そこは火山島。明朝のトレッキングでは、荒々しくも静かな山の景色に心を奪われました。登山というより「長い散歩」に近いかもしれません。風の音しかしない広い景色の中で、火山岩の道をザクザクと音を立てながら進んでいくと、自分がとても小さくて、それでいて確かに「生きている」という感覚に包まれました

 

体を動かすこと、自然の中に身を置くことは、時として言葉以上に大きな力をもたらしてくれます。

 

夜には雲がなく、月もなく、条件が揃い、満天の星空を眺めることができました。人工の明かりがほとんどない島の夜空には、想像を超える数の星が広がっていました。寝転びながら見上げると、自分が宇宙の中の一部なのだと、どこか安心するような、不思議な気持ちになりました。

 

悩みや不安にとらわれているとき、視野はどんどん狭くなっていきます。
でも、星空のようなとてつもなく大きなものに出会うと、気持ちが少し広がります。
「自分の世界」が、もう少し広くて、柔らかいものであっていいんだと思えたりします。

 

「心が疲れているときこそ、自然の中に身を置いてみる」
それは治療とは別の、小さな回復のきっかけになることがあります。もちろん、遠出をしなくても構いません。身近な公園を歩くことや、海辺を歩いてみる、森の中で静かにコーヒーを飲む、普段通らない道を選んでみるなど、どんなことでも、“旅”になるのです。

 

心の不調に向き合いながら、ゆっくりと回復を目指している方々はたくさんいらっしゃいます。そんな中で、「思い切って旅に出てみたら、気持ちが少し動いた」という声もよく届きます。

 

旅に答えはありません。旅とは「自分の心を連れて出かける」行為です。知らない景色、出会った人の言葉、心に響く風景。それらが、自律神経を柔らかく整え、こころのスイッチを切り替えてくれることがあります。

 

もちろん、状態によっては休息や安全な場所にいることが最優先のときもあります。
でももし、心と体が許すのなら、小さな旅をしてみてください。歩くことで、遠くを見ることで、自分を見つめなおせることもあるからです。